【CoC】販売シナリオを書くには、どの程度のコストがかかるか。

CoCシナリオを書くにはどの程度のかかるか。


もちろん、シナリオの規模やクオリティ、その人の執筆スピードはモチベーションによる部分が大きいので、一般化は難しいが、ある程度の指標は出せる。

まず、シナリオのコンセプトを考え、背景を練り、調査により明らかになる情報を箇条書きし、いくつかのメモを用意し、簡易的なマップを用意し、テストプレイまでこぎつける。

これは大して難しい事ではない。数十回のキーパー経験と、いくつかのインスピレーション(すなわち、インプット)があれば、2~3時間もあれば完了する。
しかし、これはいわばプロットであり、シナリオと呼べるものではない。

テストプレイの結果は大抵の場合は悲惨なものになるし、無数の苦情に近いフィードバックを取捨選択しなくてはならない。

ここから、ライターは「このシナリオは面白い」「きっと上手くいくさ」という強力な自己暗示のもの、プロットのブラッシュアップに努めなくてはならない。
ほとんどのプレイグループで機能するよう、導線を整備し、情報の量と質を十分なものにし、NPC命名し設定を書き込み、科学的・歴史的な調査を行わなくてはならない。結果として背景は変更され、整合性は破壊される。
この作業は大抵、それなりに楽しいものであるが、少なく見積もってもプロット作成の3~5の時間がかかる。
こうして完成したものは最低限シナリオと呼べるものであるが、あくまで自分の為に用意されたものであり、他人の事を何も考えていない。


シナリオを誰でも回せるようにする作業は、シナリオ作成の中で最も苦しく、楽しくない箇所である。
資料や平文の文章を精査するのはもちろん、(あなたがゲームに不慣れなら)ルールとの整合性も考えなくてはならない。
もっとも苦痛なのは、シナリオ的に重要でない箇所の書き込みだ。それは郷土資料館であったり、カルトの地下図書室であったりする。これらは背景をプレイヤーに説明する為に存在し、プレイヤーは熱意により取捨選択する事ができるが、シナリオライターには捨てる自由がない。
もちろんライターの判断で切り捨てて良いが、腹立たしい事に、ほとんどのキーパーライクなユーザーは、こういった施設の書き込みに大いに期待している(私もその一人だ)。
そして、マップの整備。少なくともダンジョンハック的な要素があるのであれば、用意した方が良い。これはライターの技量による所が大きい。無理なものは無理なので、画力が無ければ外注する他ない。結局のところ、そのコストが惜しいのであり合わせのものになる事がほとんどだろう。
この作業には、最低限のシナリオが完成するまでの時間の、約3倍を要する。

そして外部テストプレイだ。
自分一人では上手く回ったが、他人が回すと上手くいかないという事はよくある。
これは知識量や価値観の差、不完全なシナリオ、プレイ傾向の違いなど、様々な要因が考えられる。
相変わらずフィードバックは有益なものとクソの役にも立たないもの、無数の誤字指摘など様々だが、大抵の場合は膨大な修正(場合によってはセクションの追加)を迫られる。
少なくとも2人以上にテストプレイを依頼するのが好ましく、日程調整などを含めると、フィードバックが帰ってくるのに2週間は見積もった方が良い。
テストキーパーを先に召集し、セッション日を納期にする事で自分を奮い立たせる方法もあるが、個人的にはオススメしない。大抵の場合はずさんな部分が残り、テストキーパーから苦言を受ける事になる。
この工程は作業時間こそ大した事はないが、とにかく時間がかかる。
そして残念な事に、分担できない。

最後に文章校正がある。
当サークルには大変優秀な専属の校正者がおり、テキストを投げれば48時間以内に結果が返ってくるが、一般にそこまで環境が整っている(校正を重要視している)者は少ないだろう。
文章校正を依頼する相手は、少なくとも大学(可能なら院)を卒業しており、論文を書き、何度も修正された者が好ましい。日本の大卒率は約50%であるため、大卒者が理解できるテキストでようやく、半数の人間に通じるという事になる。
彼が理解できないとラインを引いた箇所は、素直に修正に応じるべきである。

ここまでの話をまとめると、以下のようになる。

●プロットの作成 2~3時間

●プロットの清書 プロット作成の3~5倍

●シナリオコンテンツの充実 今までの作業の3倍

●テストプレイ 結果が出るまで2週間

●校正作業 結果が出るまで2週間

シナリオコンテンツの充実とテストプレイ・校正は並列作業可能とはいえ、
少なく見積もっても2か月の期間と、20時間以上パソコンに張り付く事が必要である。
しかもこれは8~10ページのショートシナリオの話であり、規模が大きくなれば、それだけ労力は増える。私が過去に書いた26ページのシナリオは、文章だけで120時間を要した。

120時間というのは、1か月の労働時間に近しいものであり、本来であれば20万円相当を受け取るべきものだ。
シナリオ製作とは、辛く苦しいものなのだ。