(4/27)プレイヤーをした経験だけで語るのはよくないと思ったので,キーパーでプレイしてから書き直します.
注:全てのシナリオは好みと相性であり,万人受けするシナリオというのは存在しません.
クトゥルフ・タブレット掲載のキャンペーンシナリオ”這い寄る影”の第2部「The Cage」
このシナリオ,作者様には大変申し訳ないのですが,プレイした結果は「日本公式の中で最もつまらないシナリオ」という評価となってしまいました.
この事実について,いくつか原因を話し合い,改善点をまとめました.その際,「trpgとして面白いシナリオとは何か」という話になり,有用な意見がいくつも出た為,まとめておきます.
まず,The Cageというシナリオですが,探索においてプレイヤーが考える事がほとんどありません.導入で指定された家に向かい,部屋にある"気になるもの"を全て調べれば,次に行くべき場所が明らかになります.さらに向かった先で"気になるもの"を全て調べれば,イベントが発生し,クライマックスに突入します.
この"気になるもの"にはそれぞれ技能が指定されており,その成否によって情報が出たりでなかったりするのですが… 失敗すればシナリオが詰む事があってはならない為… 究極的に言うと"全てのダイスロールに失敗しても,クライマックスに向かう"事ができます.また,探索で手に入れた情報をクライマックスで活かす事がほぼありません.
これはどういう事かというと,
キーパー「この部屋ではA,B,Cが調べられます.」
プレイヤー「Aを調べます」
キーパー「では〇〇技能を振ってください.」
プレイヤー「成功です.」
キーパー「では以下の事がわかります.」
プレイヤー「ではBを調べます.」
キーパー「では〇〇技能を」
プレイヤー「Cを…」
技能はAボタン(調べる)ではない
trpgは高度なグラフィックもなく,壮大なBGMもありません.コンピュータゲームでできる内容であれば,コンピュータゲームでやった方が面白いに決まってます.
trpgの面白さの一つは,プレイヤーのアイデアでシナリオの結末を変える事ができる点,そして人間にしかできないファジーな処理です.
例えば「連続殺人事件が起きている.遺体は皆大型の獣に噛みつかれているが~」という記事による導入であれば,プレイヤーはどうすべきか考え,「まずはニュースを漁ろう」「警察に話を聞いてみよう」「現場に向かってみよう」など,すべき事を考える事ができます.シナリオにない場所に向かったとしても,キーパーが背景情報からその場所に残っているであろう痕跡を考え,情報を出す事ができます.
しかし,調べられるものが全て提示されれば,プレイヤーはその情報を調べる以外の選択肢を取る事ができません.もちろん天邪鬼なプレイヤーがキーパーとシナリオに反抗して,シナリオの想定外の調査をする事もできますが,間違いなくシナリオから外れますし,他のプレイヤーは(もしかすれば本人も)面白くありません.
このようなガチガチに固められたシナリオは,プレイヤーのアイデアが入り込む隙がないのです.脳死でサイコロを振って,与えられる情報を聞く事しかできません.
ただし,このようなオブジェクト技能系のシナリオは,あるカテゴリで多用されています.それはpixivに散見される物語性の強い所謂「エモシナリオ」です.シナリオをガチガチに固める事で脱線を防ぎ,プレイヤーをNPCとのロールプレイに集中させるというものです.これがクトゥルフ神話的でないという人もいますが,一定の人気を誇っているのは確かですし,個人的には無しではないですし,目的と手法は一致しているように思えます.
ただ,この手法が許されるのは,「物語が十分にプレイヤーの興味を引く」場合です.自由な発想による解決の面白さとは基本的にトレードオフな訳ですがら,それを差し引いても面白いだけのパワーが求められます.
がしかし,The Cageにはそれがありません.背景情報の練り込みが甘く,出てくる情報はうんちくレベル,プレイヤーを引き込む程の魅力を持っていないのです.
故に「エモシのエモ成分抜き」と言われてしまうのです.
もう一つの問題として,目的の不明瞭さがあります.何となく黒幕の正体はわかるのですが,一向に居場所が判明しません.プレイヤーは「黒幕が何かしら悪事を働いている」という事を察する事はできるのですが,そこへ向かう道筋が判明しないのです.
プレイヤーが欲する情報は間違いなく「黒幕の居場所」なのですが,それが判明しない以上,プレイヤーは何を調べれば良いかがわからなくなるのです.クリア条件のわからないゲームをプレイする事がどれだけ苦痛か,想像する事は容易い筈です.
そしてイベントが発生,探索者は黒幕に誘拐されます.
そこで探索者は周囲の状況から場所を他の探索者に伝え,救出して貰う.というのがシナリオのクライマックスなのですが…
「今までの調査は何だったのか」
プレイヤーはそう思うのです.
クトゥルフ神話trpgは調査のゲームであり,雑な戦闘システムは今までの調査の積み重ねを最も簡単に結果に繋げる手段でしかありません.もしCoCの戦闘がソードワールドのようなガチガチのシステムであれば,いくら情報を集めて対策しても,敵が強くて攻撃が当たらないからどうしようもなかった,という悲劇が生まれます.故にCoCの戦闘ルールは適当なのです.
だからこそ,クライマックスには今までの探索の積み重ねが活かされなくてはならないのです.集めた情報から敵の居場所を推察し,妨害する手段を考え,十分に武装し,最後は打ち倒す.これがCoCの最もオーソドックスで,一般に面白いと言われる結末です.
しかし,このシナリオにはそれがありません.敵が何を目的としているかは最後まで判明せず,突如としてクライマックスに突入,そのままアクションシーンを行う.プレイヤーはどこにモチベーションを見出せば良いのでしょうか.
そしてこのシナリオ,探索と強引なクライマックスの他に,オチの弱さが目立ちます.最後に神話生物を打ち倒す事が出来ないのです.武装のできない現代日本故に,致し方無い部分もありますが,その辺りをシナリオギミックで何とかするのが現代日本流のシナリオの筈です.
シナリオギミックはプレイヤーから解決法の自由を奪いますが,シナリオが未解決で終わるよりはよほどマシです.色々とやり方はあった筈です.それこそ探索段階で敵を無力化する方法が見つかるだけでも… 最低限遊べるものにはなった筈です.
と,ここまでボロクソに書いてしまったのですが,このシナリオ,もしかすればもっとまともなシナリオだった可能性があります.
シナリオ終了後に出てくる黒幕の日記.ここには黒幕の動機と目的が書かれています.この情報がシナリオ中盤に手に入っていれば… プレイヤーのモチベーションはもっと高いものになったでしょう.
…この情報,本来はシナリオの中盤で出る筈のものだったのでは?
というのも,情報を読む限り「本編で出すつもりが,プレイヤーが情報を落とした為に,最後にネタバラシとして渡した.」としか思えないのです.
"這い寄る影"はクトゥルフ神話trpg公式生放送でプレイされたシナリオです.
そこでは初心者プレイヤー相手にシナリオを回し…
全てが繋がります.強引な誘拐イベントは調査に積極的でない探索者をクライマックスに連れ込む為のアドリブ処理だったのではないか?
そして,本来のシナリオを公開してしまうと,その初心者の名誉に関わる為,シナリオが元よりこういうものであった,と修正したのではないか?
元より自由な探索を行えるシナリオで,最後は誘拐されたNPCを助ける為,プレイヤーがアイデアを出し合う内容であった… そう考える事ができるのです.
もちろん推察の域を出ませんが… 可能性としては十分にあり得ます.
最後に,せっかくなのでシナリオへの持論を述べておきます.
世には無数のシナリオがあります.本国ケイオシアム(及びそのサード)だけでも500本のシナリオがあると言われています.さらに各国のライセンス,同人を合わせると… 凄まじい数になるでしょう.
その中で自分の書いたシナリオを回して貰う為には… 少なくとも一つは「オンリーワン」の要素が必要となります.
興味を引く情報,魅力的なNPC,斬新なギミック,プレイヤーの背筋を凍らせるような恐怖描写,入念に調べられた歴史的考察… なんでもいいです.一つは唯一無二のものを作り出さなくてはなりません.
そういう意味で日本公式はよくやってると思います.現代日本といういわば"縛りプレイ"のような環境で,よくこれだけの解決法を考えるものです.特に内山先生は型破りなシナリオを何本も提供してくれています.
一般にクソシナリオと呼ばれる「あおいお月さまがでると」であっても,脳内当てとそれ以外の解決を一切認めない森園のパワー,虚無に包まれるラストと,唯一無二の要素がこれでもかと詰め込まれています.
そういうシナリオは動機がどうであれプレイされるのです.あおいお月さまがでるとのプレイ数を見れば明らかです(プレイヤーは阿鼻叫喚ですが).
常にオリジナルであれ,常に挑戦者であれ,常にマイノリティであれ.